AIエージェント導入の「壁」を乗り越える 〜アンケートから読み解く成功のロードマップ〜

AIエージェント導入の「壁」を乗り越える 〜アンケートから読み解く成功のロードマップ〜

AIエージェント導入の「壁」を乗り越える 〜アンケートから読み解く成功のロードマップ〜

 

「AIエージェントを導入すれば、業務効率化やDXが一気に加速する」——そう期待してプロジェクトを立ち上げたものの、PoCの段階で足踏みしてしまったり、導入したものの社内で特定の人しか使わなくなったりしてしまっている方は多いのではないでしょうか。

 

「Google Cloud Next Tokyo 26」の弊社ブースにて、AIエージェントの導入前後の企業が抱える課題に関するアンケート調査を実施しました。

未導入企業177名、導入済み企業403名、合計580名の回答から見えてきたのは、プロジェクトが前進するにつれて、導入準備から、現場を巻き込んだ継続的な統合・運用へと課題の重心が移るリアルな実態でした。

 

足元の受け入れ準備を着実に進めながらも、先行企業が次にどこでつまずいているのかをあらかじめ知っておくことは、プロジェクトの停滞を防ぐ大きな助けになります。

本記事では、このアンケート結果を紐解きながら、プロジェクトが前進するにつれて直面するハードルの推移を整理し、国内先進企業の事例を交えながら、自社でAI定着を成し遂げるための実践的なアプローチを考察します。

 

 

データが語るリアル:準備フェーズから統合・運用フェーズへの課題の推移

今回のアンケートでは、企業の導入状況に合わせて設問を用意し、それぞれの現在地で直面しているリアルな課題を調査しました。

 

AIエージェントに関する現場の課題

image1

この結果を並べて見ると、企業がAIエージェントの導入を進める過程で直面するハードルが、綺麗に次のステップへと移行していることが分かります。

 

① 「導入準備」を越えた先に現れる「業務統合・運用の壁」

今回のアンケートで浮き彫りになったのは、AIエージェントの導入前後で直面する「壁」の質が変化するという事実です。

未導入企業では「社内データの未整備(33.3%)」や「セキュアな環境構築人材の不足(17.5%)」が半数を占め、まずは安全な検証環境とデータ基盤という「スタートラインに立つための準備」に足踏みしている実態がうかがえます。

 

一方で、実際に環境を整えて導入を果たした先行企業403名が直面しているのは、「現場業務への定着と持続的な運用」という一段進んだフェーズの課題です。

最も多く挙がったのは「既存ツールとの連携不足(33.0%)」、次いで「活用の属人化(28.5%)」や「エージェントの精度不足(24.8%)」でした。

 

プロジェクトが前進しAIが現場に配備されたからこそ、「普段使っている業務ツールとどう繋ぐか」「一部の得意な人だけでなく現場全体にどう浸透させるか」「実務に耐えうる精度をどう維持するか」という、より業務に密接した新たなテーマが現れてきています。

 

② 「言語化不足」は形を変えて「属人化」や「連携不足」に影響する

この全体傾向を踏まえ、まず未導入企業が直面している具体的な課題の内訳に目を向けてみましょう。

 

技術的な課題を抑え、最も多くの回答を集めたのは「活用イメージが言語化できていない(34.5%)」でした。日々の業務棚卸しに割くリソースの不足とも相まって、「何をAIに任せるべきか」「どのような指示を与えれば自律して動くのか」を業務レベルで定義できていない実態が、回答数からも鮮明に表れています。

 

実は、この初期段階における「言語化」の解像度が、導入後のフェーズで浮上する「既存ツールとの連携不足」や「活用の属人化」にも深く関わってきます。

  • 「どの部署の、どの業務の、どの判断ステップをAIに任せるのか」が曖昧なまま導入を進めてしまう
  • 現場が日常的に使っているどのシステムと連携すべきかの要件定義が定まらず、連携実装が後回しになる(=既存ツールとの連携不足)
  • AIを利用できる環境にあっても、自身のどの業務にAIを活用すれば良いかわからず、ITリテラシーや熱意が高い一部の社員しか使わなくなる(=活用の属人化)

 

システムを導入しても「業務プロセスの言語化」は自動的には解決しません。初期の構想段階から業務プロセスの解像度を高めておくことが、導入後の定着を大きく左右します。

 

③ 「既存ツールとの連携不足」の内実と、属人化の加速

導入済み企業の33.0%が直面している「既存ツールとの連携不足」。現場の実態を掘り下げると、ここには「利用しているツール側の仕様制約」と「セキュアに繋ぎ合わせる社内人材の不足」の双方が考えられます。

1. SaaSや業務システム側の「ツール的制約」

  • 「参照」はできても「実行・更新」ができない:データ取得用APIはあっても、AIが自律的に申請を承認したりデータを更新したりするためのAPIが未公開・制限されているケースがあります。
  • 権限制御の壁:ユーザー個人のアクセス権限を安全に引き継いでAIが代理操作する仕組みへの対応状況により、セキュリティ設計上の制約を受けやすいのが現状です。
  • イベント駆動の不足:AIが自発的にアクションを起こすトリガーとなるリアルタイム通知が備わっていないケースがあります。

2. セキュアに繋ぎ合わせられる「インテグレーション人材の不足」

  • 一方で、APIが存在していても「認証・認可や暗号化、データマスキングを考慮したセキュアな連携パイプラインを設計・実装できるエンジニアが社内にいない」という人的ボトルネックも存在します。
  • 導入前の段階で意識されていた「安全な環境を作れる人材の不足」は、導入フェーズに進むと「実業務システムと安全に結合できる高度なインテグレーション人材の不足」として、より実践的なスキルセットが求められるようになります。

 

こうしたシステム的な連携が不十分な環境では、現場に「手動でのコピペや指示の工夫」という余計な作業が発生し、結果としてITリテラシーの高い特定層しか使わない「属人化」を加速させる要因にもなってしまいます。

 

④ 「作って終わりではない」エージェント運用の必然性

AIエージェントにおいては、ツール呼び出し(Tool Use)やSkill(機能・指示のモジュール化)の進化により、従来の対話型AIのような単一プロンプトの試行錯誤自体は格段に構造化・効率化されつつあります。

 

それにもかかわらず、導入済み企業で「エージェントの精度不足(24.8%)」や「プロンプト・システム運用の泥沼化(13.6%)」が挙げられているのはなぜでしょうか。

 

ここから読み解ける示唆は、「AIエージェントは導入・チューニングが完了して動くようになれば終わりではなく、定期的に精度を計測し、再チューニングし続けるメンテナンス体制が不可欠である」という現実です。

  • 定期的な精度計測(モニタリング・評価)の必要性:業務で扱うデータの内容や社内ドキュメントの更新、基盤モデル(LLM)のバージョン更新などに伴い、エージェントの回答精度やツールの呼び出し判断には自然とブレや劣化が生じます。これらを定期的にテストし、精度を定量評価する仕組みがなければ、現場は「いつの間にか使えなくなった」と離脱してしまいます。
  • 精度低下に応じた再チューニングの負荷:精度が悪化してきた際、プロンプトのどの部分を修正すべきか、Skillの定義やRAG(検索拡張生成)の取得ロジックをどう見直すべきかという「再チューニング」に多大な工数がかかります。これを属人的かつアドホックに対応しようとすることが、まさに「運用の泥沼化」を招く原因です。
  • 「自動化の幻想」と運用体制の欠落:「一度作れば勝手に自律稼働し続ける」という過度な期待で導入してしまうと、リリース後に精度を監視・保守する予算や担当リソースが確保されておらず、結果として運用が立ち行かなくなります。

 

AIエージェントは従来の静的なソフトウェア以上に、「リリース後に精度を定期計測し、必要に応じて再チューニングを繰り返す(LLMOps)」という運用サイクルを前提とした設計が必要となります。

 

2. 先進的な企業の実践例から見るアプローチのヒント

 

これらのハードルに対して、国内の先進企業では具体的にどのような工夫が行われているのでしょうか。アンケートから見えてきた「言語化と属人化」「ツール連携」「継続運用」への対策に加え、全社定着を支える組織づくりの実践例をピックアップしてご紹介します。

※以下は各社様の公式発表情報をもとに作成しています。

 

① 現場の「不」の棚卸しとテンプレート化で「言語化の壁」を突破する(日清食品社)

全社にAI環境を整備しても、「自業務のどこにどう活かせばいいか分からない」という言語化不足から、活用が一部の推進者に属人化するケースは少なくありません。

日清食品社では、この課題に対し、全国拠点から選抜した現場メンバーとともに「マンダラチャート」を活用し、日々の業務における不や非効率を徹底的に棚卸し・言語化しました。その上で、選定した約30業務に対して誰でも高品質なアウトプットが得られるプロンプトテンプレートを作成・共有。現在では100種類以上のひな型をシステムから即座に呼び出せる仕組みを整え、個人のリテラシーに依存しない全社的な定着を実現しています。

出典:https://www.nissin.com/jp/recruit/nissinfoods/business/aichat/

 

② 日常業務の動線に溶け込ませ、属人化を防ぐ工夫(NOT A HOTEL社)

AIを単体のチャットツールとして置いておくだけでは、開発や改善の工数が高く「属人化」しやすいという限界があります。

この課題に対して、日常の業務プロセスそのものにAIを組み込むアプローチが見られます。たとえば、NOT A HOTEL社では、iPaaSやワークフロー自動化ツールを活用し、「申請情報をトリガーに、AIが一次スクリーニングを行い、台帳への自動記録やチャットツールへの通知を行う」といった一連の流れをシステム間で繋ぎ合わせる実践例があります。AIに情報整理や一次判断の補助を行わせ、人間が最終確認・仕上げを行う形にすることで、処理時間の短縮や大幅な工数削減を実現させています。

出典:https://note.com/enpipi_work/n/n86cf7f272436

 

③ 多角的な評価ループと改善サイクルによるLLMOpsの確立(メルカリ社)

AIエージェントを本番運用に載せる際、非決定論的で「正しさ」の定義が曖昧である点や、評価すべき側面が多岐に渡ることによる運用の難しさが深刻な壁となります。

メルカリ社では、データ分析AIエージェント「Socrates」の運用において、エージェントは「作って終わり」ではなく「育て続ける」ものと定義しています。

ADK Evaluationを用いたオフライン評価やユーザーからの直接フィードバック(オンライン評価)、別AIが応答を評価する「Agent as a Judge」を組み合わせた多角的な評価ループを構築しています。さらにダッシュボードで重要指標を可視化し、プロンプトやツール定義の継続的な改善サイクルを回すことで、本番環境での安定稼働を実現しています。

出典:https://speakerdeck.com/na0/merukariniokerudetaanariteikusu-ai-eziento-socrates-to-adk-huo-yong-shi-li

 

④ 安全な環境整備と利用促進の文化醸成(パナソニック社)

導入後に全社的な活用が進まない課題を克服し業務へ定着させる企業は、ガバナンスによる安全性の確保と「現場が気軽に試行錯誤できる環境づくり」を同時に進めています。

パナソニック社では、社内向け生成AIツールの提供や利用ガイドラインの策定、AI倫理委員会によるリスクマネジメント体制を整備するとともに、グループ横断の活用コミュニティを立ち上げています。

経営層がAI活用の重要性を明確に示して安心・安全な利用環境を担保しつつ、現場社員同士が質問やノウハウを自発的に教え合える「助け合いの場」を用意したことで、社内での活用率向上(調査対象者の約7〜8割が利用)や業務効率化(1人あたり月5.3時間の削減)といった成果へと結実させています。

出典:https://ai-keiei.shift-ai.co.jp/interview-f7-panasonic/

 

 

3. まとめ

AIエージェント導入前後の企業が抱える課題について見てきましたが、いかがでしたか。思い当たる課題はあったでしょうか。

 

これから導入に挑む企業は、「データ整備」や「セキュアな基盤構築」といった初期要件を着実にクリアしつつも、先行企業が直面している「現場業務との連携」や「運用の設計」を早期から見据えておくことが、導入後の確実な定着に繋がっていきます。

 

また、導入済みでも組織への定着などで課題を抱えている方は、ぜひ先にご紹介した先進企業の事例なども参考にしてみてください。

 

自社での体制構築が難しい場合、弊社では「既存ツールとの連携」を含めた「セキュアな環境構築」や業務に即した「エージェント実装」「AIを組み込んだシステムの継続的改善を含めた運用」などのご支援が可能です。ご興味がございましたら、ぜひお気軽にお声がけください。